理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

内申点という魔物⑧―高校入試は要らない!?―

内申評価制度がもたらす中学教育について考えてきたコラム「内申点という魔物」 第8回はこれからの高校入試と内申評価制度の在り方ついて論じていきます。

 

 

■入試問題の多様な在り方を模索する時

 

“高校入試は要らない!?”とは、極論のように聞こえるかもしれません。高校入試の存在の是非ではなく、一律な基準で行われる従来の公立高校入試のあり方について考察を加えてみました。トップ校から下位校(偏差値的序列としての下位)まで同一の入試問題で篩(ふるい)にかける入試方法を見直した方がいいのではないでしょうか。

 

第3回のコラムで『入試は学校の特色や個性を表す、いわば、学校から受験者に対するメッセージだ』と述べました。高校が教育方針を明確にして特色を打ち出している場合は、高校独自問題を作成して必要とされる能力を問う方法が効果的です。私立高校に比べて公立高校は万遍ない成績の良さを問う学校が未だ多いことも事実です。一方で昨今は、SGH(スーパーグローバルハイスクール)やSSHスーパーサイエンスハイスクール)に認定される公立高校も出てきています。逆説的な捉え方をすれば、高校独自問題方式の導入は、公立高校が教育方針やカリキュラムに特色を打ち出す契機になるかもしれません。

 

トップ校では大学進学熱の高い生徒に対してハイレベルな授業が展開されます(のはずです)。公立高校入試は教科書に準拠した標準的レベルの問題です。成績優秀者にとっては簡単で差がつきにくいため、独自問題の採用により、トップ校の授業についていける能力を適正に測定できます。

 

下位校では、中学までの基礎的な学習の欠落により授業の進行に困難が生じています。このような高校では、授業を展開する上で最低限の知識や理解を持ち合わせた生徒に入学してほしいはずです。ここで言う最低限の知識や理解は、高校のレベルによって異なるでしょう。公立高校入試は教科書レベルですが、下位校受験者にとっては、それでも難解なものです。(例えば、理科の入試問題では理科の知識を問う以前に問題文が長く、それなりの読解力が必要とされます。読解力の足りない受験生は問題文の意味を読み取れず、理科の知識を習得していたとしても対処できません。)

 

入学してくる生徒が身につけておいてほしい最低限の学力を測るには、学校独自の問題を用意することが適当です。または、レベルごとに数パターンの共通問題を作成しておき、どのパターンの問題を採用するかについて学校側に判断を一任する方法もあるでしょう。

 

高校独自問題案に対しては、作成と採点作業の点で高校の負担が増えること、受験者へ過度な不安と競争を煽ること、を理由にした反対の声も聞こえてきそうです。高校の負担に関しては、教科ごとに独自問題と共通問題とを使い分ける方法も可能です。高校側が特に重要視したい科目だけに独自問題を採用すれば良いでしょう。また、上記に挙げたように数パターンの共通問題を作成することで高校のレベルに応じた対応ができます。受験者への過度な競争を煽るというのであれば、そもそも、多感な十代の時期に3年毎の入試を行うこと自体を止めればいいのです。

 

ちなみに都立高校では、上位校において学校独自の問題を作成しています。(英語のみ、数学のみなど教科毎に作成して都立共通問題と併用している学校もあります。)

 

 

■内申評価の多様な活用を

 

これまで散々問題視してきた内申評価制度はどうすれば良いのでしょうか。個人的な好き嫌いから言わせてもらえば、廃止に一票入れたいところです。しかしながら、第3回のコラムで既述の通り、内申評価制度は高校浪人を生み出さない役割と中学生を偏りなく高校へ振り分ける役割とを担っています。こうした側面を考慮して、もう少し折衷的な在り方を考えてみます。

 

そもそも、すべての公立高校が9教科の評価を必要とする理由はどこにあるのでしょうか。大学進学を目指す上位校において、美術も音楽も技術も優れていて体育の評価までもが“5”である必要性はありません。ちなみに私の通った高校では芸術科目の受講において選択制が採られており、美術と音楽と書道の内から一科目だけを選択します。美術を選択した私が音楽と書道の授業を受けることは中学卒業より一度もありませんでした。

 

実技科目における内申評価はその実力の信憑性に欠けています。絵を描くのが上手であり、楽器の演奏をこなし、製図も引けて木工作業も器用であり、著名な画家や音楽家について博識であり、運動万能なんて人、お目にかかったことがありません。実技科目の内申評価はあくまでも評価のための評価でしかないのです。

 

高校は教育方針や高校卒業後の進路の傾向に照らして、高校入試に内申評価をどのように利用するかを検討してはいかがでしょうか。例えば、体育系に強みを発揮している高校なら、体育の内申評価に係数を乗じて高配点とする方法もあるでしょう。一般事務やサービス業への就職が多い高校ならば、国語と数学と社会の内申評価のみを採用しても良いかもしれません。先のコラムで登場した、入試問題の得点のみで合否を決する千葉県立千葉高校のような方式を上位校で導入してもよいでしょう。高校毎に内申評価を柔軟に利用できる制度は高校の特色化と生徒の多様化をもたらします。

 

こうした提案に対して、「9教科すべてが高校入試に利用されないのであれば、特定の授業に身を入れない生徒が現れるのではないか。」との反対意見が上がりそうです。確かに高校では、受験する大学に関係のない授業を真剣に受講しなかったり、内職したりする生徒はたくさんいます。大学受験の内容と高校の授業の内容はかけ離れている場合もあるからです。しかしながら、公立高校入試の内容は教科書に準拠していますので、そのような不安は取り越し苦労かもしれません。そもそも、仮にその授業が自分の高校入試に関係しない教科だとしても、魅力ある授業内容であれば生徒は耳を傾けるのではないでしょうか。

 

多様な判断基準が多彩な人材を生み出します。多様な判断基準の導入は、公立高校側に高校の特色と個性を考えさせる契機となるはずです。私立に負けない魅力ある公立学校が増えることは、生徒の学び意識を向上させ、地域社会の活性にも役立ちます。

 

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