理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

求人困ったちゃんランキング

理科塾は少人数制の理科実験クラスと個別式の進学指導クラスを運営しています。経営者である私一人がすべてのクラスで指導にあたっています。かつて小学生向けの理科実験教室を運営していた際には、授業のサポート役として女性アシスタントを雇っていました。年齢も経歴も様々な方と一緒に仕事をさせていただきました。

 

雇用主としてスタッフの方と仕事を築き上げるタスクは、生徒に指導教育するタスクとは別の能力や発想を必要とします。10年若かった私はスタッフの育成に試行錯誤すると同時に、スタッフの方からたくさんの気づきや学びを授かりました。彼女たちに感謝の念を持っています。その一方で、よく働いてくれるあまり甘えすぎたり、おやじギャクで困らせたり、うんちくを長々垂れたりしたことを反省しております。

 

採用されて私の右腕として働いたスタッフの陰には、採用の段階で篩(ふるい)にかけられた大勢の応募者がいらっしゃいます。雇用主にとって採用活動は経済的にも精神的にもすり減らすものが多くあります。他業種の事業主の皆さんも共通した思いを抱いた経験があるのではないでしょうか。今回のコラムでは、採用活動の中で出会った摩訶不思議な困ったちゃんたちをランキング形式でご紹介します。

 

 

第5位 受話器の向こうで「待つわ」型

 

今ではLINEで応募する方法も当たり前になりましたが、当時の私は、応募のファーストステップとして電話を重視していました。

 

アシスタントは、私と阿吽(あうん)の呼吸で授業の流れを汲み取りながら生徒のフォローや送り迎えに来られた保護者の対応を行わなければなりません。臨機応変な対応力とハキハキした口調と豊かな表情とが求められる、いわば接客業の一面があります。求人会社の営業さんには歌のお姉さん的な人に来てほしいとの望外な希望をぶつけておりました。求人サイトからのメールでの応募方法がすでに一般化していましたが、私は電話対応の様子を見たいとの思いから電話応募を優先していたわけです。

 

しかし、応募者からすると電話はハードルが高いようで、奇想天外な応募者に遭遇してきました。よく遭遇したタイプの一つが以下のようなものです。

 

私「お電話ありがとうございます。○○の吉井と申します。」

 

応募者「求人を見たんですが・・・。」

 

私「はい、・・・。」

 

応募者「・・・、・・・、・・・。」

 

私「・・・、・・・、・・・。」

 

応募先に電話を掛ける行為は相手の業務を中断させるかもしれません。応募の電話をする際は身を名乗り要件を端的に伝える必要があります。どのように最初の一言を絞り出すかに応募者の人となりが見えてきます。応募者からすればどんな採用担当者が電話口に現れるか分かりません。緊張して上手く話せないことも私は織り込んでいます。電話慣れしていない学生さんなら尚更ですね。声が上ずっていても、言葉を言い間違えても構いません。応募の本気度は声を通じて伝わってきます。

 

「待つわ」型の応募者は名も名乗らず、誘導される時を待ちわびています。マックでハンバーガーを注文するノリですね。私もちょっと意地悪なところがあり、敢えてすぐに誘導せず間を開けて待っています。どちらが先に口火を切るか我慢比べの様相を呈してきました。私に勝ったら採用です?

 

 

第4位 消息不明・失踪型

 

緊張する電話での応募の後、履歴書を郵送すると書類選考され、面接日が設定されます。面接に辿り着くまで頑張ってこられたにもかかわらず、当日約束した時間に姿を見せない方がいらっしゃいました。

 

雇う側である私も一期一会の気持ちで面接に臨みますから緊張します。短い時間の中でお互いを伝えあい、私は応募者の採否を判断しなければなりませんから責任がのしかかります。

 

私は時間を空けて教室を隅々まで掃除して応募者の方をお迎えしようと待っていました。ところが、時間になっても扉が開く気配はありません。電車が遅れたのか、やんごとなき用事でも発生したのか。私は履歴書に書かれた携帯番号に電話してみるのですが、呼び出し音が空しく鳴り続けます。

 

応募者の気が変わることも、他に仕事が決まることもありますから遠慮なく断りの連絡をいただければ差し支えありません。履歴書は返送しましたが、顔写真も住所も学校名も趣味特技も晒しておきながらどこに行ってしまったのでしょうか。ひょっとしたら犯罪に巻き込まれたとか、山登り中に遭難したとか、心配しています。どうかご無事でいらっしゃることをお祈りしております。

 

 

第3位 パリピ

 

電話対応重視といえど、時代に逆らう訳にもいかず求人サイトの応募フォームも利用しておりました。求人会社の営業担当者にすれば応募件数の向上は営業使命ですから、彼らは応募フォームの活用を積極的に勧めてきます。私の予想通り、応募フォームから応募される方の質は電話応募者のそれを下回る場合が多かった印象があります。

 

入力項目が埋められている方は少なく、酷いものになると苗字のみだったり、電話番号が途中で欠けていたり、住所は市区町村で終わっていたりしていました。(※当時、一部未入力の項目があっても送信可能だった。)個人情報が気になるのでしょうか。そんなに雇用側を信じられないのなら応募しなければいいと思いますが。

 

応募フォームにも、紙の履歴書と同様に経歴や趣味特技や志望動機などの自己アピール項目があります。電話ほどではないにせよ、どんな人物なのかを伝えられる仕組みは採られています。しかし実際には、氏名とメールアドレスと電話番号しか入力されていない方が大半でした。応募フォームを受け取った採用担当者が応募者に電話を掛ける流れとなります。応募者からしてみればとりあえず名前を送っておいて、採用側が誘導してくるのを待つという意図なのでしょう。

 

中にはこんな方がいらっしゃいました。珍しく志望動機欄まで入力されていましたが、その内容がHey♪Yo系でした。

 

【志望動機】

俺の力で 子どもたちの 科学の芽を はじけ させるぜ! イェーイ♪

※文字スペースは私の演出です。

 

早目に稲を刈り取る田んぼという名の大学の学生さんでした。

 

君が はじけられる 場所が どこかに 見つかるーと いいね! ヨォーウ♪

 

 

第2位 天然?ロハス

 

 

子どもたち向けの理科実験教室という特性が引きつけるのか、自然派ロハス系を自負する方からの応募が一定の割合で存在します。

 

ある時、電話応募された方に私は履歴書を郵送するようにお願いしたのですが、2週間経っても送られてきません。よくあるパターンなので、気が変わったか他に仕事が見つかったのかと気に留めていませんでした。3週間ほど経ったある日、ポストの中に少し大きめな封筒が入っていました。履歴書にしては封筒に厚みがあり、触るとふわふわして柔らかい。

 

「なんかの嫌がらせか? 私の対応に気に障ることでもあったのだろうか?」

 

と恐る恐る開封してみると、履歴書の他に一枚の布切れが入っています。履歴書には以下のように書かれてありました。

 

「私はテキスタイルの勉強をしています。ぜひそちらの教室で子どもたちにテキスタイルを教えたい。」

 

謎の布切れにはボタンや粘土や針金などの素材を用いてコラージュが施されていました。なるほど、ご自身の作品を用いた自己PRなのでしょう。書類が送られてくるまでの3週間はコラージュの制作活動に取り組んでいたわけですね。熱意は受け取りましたが、私は美術を教えられるほどの才能がありませんし、生徒さんも理科実験を学びに来ています。うちの教室で布といえば、染色の仕組みを学ぶ際に行う絞り染めくらいでしょうか。

 

理科実験にテキスタイルをコラージュできなくてごめんなさい。

 

 

第1位 テロ型

 

最後は最も衝撃的だった応募者の話をします。授業を終えてアシスタントさんと片付けをしていたところ、その電話は鳴りました。

 

私「お電話ありがとうございます。○○の吉井と申します。」

 

応募者「求人誌に載っているそちらの仕事は立ち仕事ですか?(怒)」

 

私「え、・・・はい、そうですね、実験している子どもたちのフォローに入ってもらいますから立って動いてもらいます。」

 

ガチャ(電話を切られた)

 

私「・・・」

 

突然の竜巻に襲われたような感覚に囚われました。

 

声の印象から30~40代の女性でしょうか。物凄いぶっきらぼうな物言いで、なぜか好戦的でした。

 

求人誌には白衣を着た女性スタッフの写真を掲載して仕事内容や教室の雰囲気を分かりやすく書いてもらっています。求人広告は、掲載をする上で法律に則り文言や表現の仕方に注意を払わなければなりません。一般的な学習塾と違い、特殊な教室のお仕事ですから仕事内容が伝わりにくかったり、理系というイメージから女性に敬遠されたりします。そこで応募してもらいたい求人像を画像と文章で伝えられるように、求人会社の営業さんと綿密に打合せしながら広告を制作していきます。

 

この応募者は求人広告から何を連想していたのでしょうか。なぜ気になるポイントが立ち仕事か否かだったのでしょうか? そしてなぜ好戦的だったのでしょうか? もし私が「座ってできるお仕事です。」と答えたら、この後の会話はどのように展開されたのでしょうか?

 

 

時代は日々変化を続け、採用・求人の世界も複雑化しています。従業員を屁とも思わないブラック企業の餌食に求職者が陥らないように国は法や制度を改善し、私たちは身を守る術を学ばなければなりません。同時に私たちは、働くことの喜びや有難さや意味を考え、自立した社会人を目指して自己研鑽し続ける必要があります。求職困ったちゃんたちと接した経験から、想像力を持って人や社会と接していく大切さを私は今も痛感しています。

 

 

 

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