理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

テストから養う「分析眼」

2月に突入し、早いもので2019年も12分の1が過ぎ去りました。2月と言えば、「テスト」です。私は塾屋ですから、受験シーズン到来です!と受験の話題に触れるべきですが、私がもう一つ思い浮かべる2月のテストと言えば、F1の開幕前テストです。なんのことやら、まったくマニアックな話で恐縮です。

 

 

■F1のテスト-最先端の技術競争の現場-で繰り広げられるトライ&エラー

 

地上波で放送されなくなって久しいF1レース(フォーミュラワンレース)です。3月の開幕に向けて各チームが技術を結集した新車を発表し、テストに奔走する時期が2月です。航空力学や流体力学を駆使した車体や究極のハイブリッドエンジンでもあるPU(パワーユニット)など、世界の名だたるメーカーや一流の技術者がその頭脳をフル回転させて開発に注力します。日本に絡むところでは、ホンダがPU(パワーユニット)を製作して、今年からトップチームの一つ、レッドブルF1チームともタッグを組みます。

 

メディアはテストが行われるバルセロナへ押しかけ、最速タイムと周回数の多少に一喜一憂してチーム力の予想合戦に興じます。しかし、チームがテストで重視していることは、様々なセッティングを試しながら細かな問題点をどれだけ洗い出せるのかという点です。逆に言えば、何もトラブルが現れないと車を理解することができず、開幕戦に不安を残すことになります。

 

F1復帰5年目を迎えるホンダは開発に苦戦し、これまでのシーズンで惨憺たる結果しか残せていません。それというのも、現代のF1エンジンは、ガソリンを燃焼する内燃機関(いわゆるエンジン)に加えて、ターボと2つの回生エネルギー機関によって構成されており、複雑なハイブリッドとなっているからです。2つの回生エネルギー機関とは、、燃焼で生じた排気熱を電気エネルギーに回生するMGU-H、ブレーキング時に放出される運動エネルギーを電気エネルギーに回生するMGU-K(市販車ではプリウスなどに搭載されている技術)です。こうした仕組みから近年はエンジンという呼び名ではなく、PU(パワーユニット)という名称が使われています。

 

PU(パワーユニット)は、実車に載せる前にダイナモと呼ばれる施設で開発が行われます。ダイナモとは、研究所内でPU(パワーユニット)を単体の状態で稼働させる施設のことで、コンピュータのプログラムに沿って数値の計測が行われます。(イメージとしては、人工脳みそがガラス部屋の中に置かれ、コンピュータに接続されており、モニターに脳の稼働状態が表示されているといった感じでしょうか。)ダイナモでは、F1が開催されるサーキットの情報を入力することで実際に走行するときに近い状態を再現することが可能です。実際のコースをシュミレーションしながらパワー・トルク特性・エネルギーバランス・耐久性などの性能を評価します。ホンダは栃木県さくら市に最新鋭を誇る研究開発施設を所有しており、ここで日々F1パワーユニットの開発が進められています。

 

研究所のダイナモ上で問題のなかったPU(パワーユニット)であっても、サーキットの走行テストの段階においてダイナモ上には現れなかったトラブルに見舞われることがあります。急加減速やハイスピードコーナーで発生する高いGフォース(慣性や遠心力)、路面の凹凸から伝わる振動や熱、PU(パワーユニット)以外の装置との干渉など、ダイナモでは再現できない環境や条件がPU(パワーユニット)に影響するからです。

 

現場で発生したトラブルデータとPU(パワーユニット)を再び研究所に持ち帰り、分析して、原因を究明する。対策を施して開発の方向性を再検討する。こうした地道なトライ&エラーが最先端の技術の現場で繰り広げられています。

 

 

■テストと向き合って得られるもの

 

いささか話の飛躍と思われるかもしれませんが、「テスト」という観点でF1の世界から勉学の世界へ目を向けてみます。両者のテストのスケールやレベルに違いがあるものの、テストの役割においては同じことが言えるのではないでしょうか。

 

受験がこれまでの積み重ねを発揮する勝負の場であるとすると、日頃の模擬試験や小テストは、自己の不得意箇所や癖を洗い出し、対策と今後の勉強の方向性を検討するために活用されるべきものです。ところが、こうしたテストの活用をしている人は少ないように思います。テストの答案が返されると目がいくのは点数だけという人はいませんか。点数が良かったと安心して、悪かったと落ち込んで、答案用紙をポイしちゃってませんか。偉そうなことを言っている私も学生時代はその類の一人でした。テストの点数はこれまでの頑張りのバロメーターでもあり、良い点数は励みにもなりますから、点数に一喜一憂する気持ちはよく分かります。

 

「点数の一喜一憂に終わらず、テストをちゃんと見直しています」と思った人もいるでしょう。では、“見直し”とは何を指すのでしょうか。

 

テストの答案が返却されると、先生が黒板に解答や解法を書き、クラス全員がそれをだらだら書き写す風景がよく見られます。ここで行われているのは個々の問いに対する解き方をなぞる作業です。解答と解法を知り、分かった気になるかもしれませんが、そこに何の意味もありません。その問いの本質的な意味を理解していなければ、問い方を少し変えられると丸写しした解法は役に立たないからです。

 

テストで重要なのは前述したようにまずは不得意箇所と解き方の癖を発見することです。間違えた箇所については、“なぜ”間違えたのか、原因を究明しなければなりません。「必要な知識の漏れや不足がなかったか」、「理解の思い違いがなかったか」、「問題文の読み込みが足りなかったか」、「共通した傾向はなかったか」など。逆に正解だった箇所に対しても、「完璧な理解の上で解けたのか」、「迷いやあやふやな点がなかったか」、「解答に辿り着くまでの道筋は正しかったか」などを究明する必要があります。「なぜ」・「どうして」の思考を繰り返し、情報を整理する。いわば、“分析する眼”が、テストの見直しに必要とされます。

 

そもそも答案の内容はひとりひとり異なっていますから、クラス全員で行うことはナンセンスです。ひとりで答案と向き合わなければなりません。そうは言っても、「どのように分析すれば良いのか」、「今後の勉強の方向性をどのように計画すればよいのか」を知るには、全体を把握する客観性と経験が要求されます。そこで頼りにしたいのがプロの塾講師です。(塾の押し売りをしている訳ではありません。)プロの塾講師のアドバイスを借りながらも、まずは返却されたテストの解答と向き合ってみませんか。そうすることで“分析する眼”が養われ、それが学力向上への近道となりますから。