理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

分かりやすさの落とし穴

♪宵闇に 爪弾き 悲しみに雨曝し 花曇り♪

♪枯れた街 にべもなし♪

♪侘しげに鼻垂らしへらへらり♪

………(中略)………

♪あなたは(ふらふらふら)フラミンゴ♪

♪鮮やかな(ふらふらふら)フラミンゴ♪

 

失礼しました。何のことか分かる方も多いかと思います。米津玄師が歌う「フラミンゴ」の一節です。ニコニコ動画から徐々に頭角を現した若き才能は、ミュージックビデオの再生回数においても次々とヒットを飛ばしています。米津玄師の曲の魅力は、複雑に音声を重ね合わせた不協和音ともとれる曲調と、歌詞に埋め込まれた難解な言葉にあります。はじめて耳にすると難しい印象を受けるのですが、何度か聞いている内に頭の中で奏でられる心地よさというか、中毒性とも言える感覚に捉われます。もっと聞きたい、もっと知りたいと米津玄師ワールドに引き込まれていきます。

 

カラオケで米津玄師の曲を歌っている人たちの内どのくらいの人が歌詞の意味を理解しているのか分かりませんが、複雑で難解だからこそ、その深みの虜になるのだろうと思います。米津玄師の歌は噛めば味がでるスルメ曲とも言われているそうです。

 

 

■情報は軽くなる!?

 

現代社会の日常には分かりやすいもの、とっつき易いものが溢れています。テレビのニュース番組や情報番組・SNSに出回る情報の数々。アイキャッチの効くコピーや文言や画像を並べていかに人々の興味を引くか、制作する人の工夫とテクニックが試されます。

 

見ている人を分かりやすく引き込むには、白か黒か・AかBか・好きか嫌いかというような対立軸を設けることが有効です。例えば、情報番組では、タレントのスキャンダルや社会の出来事に対してセーフなのかアウトなのかを雄弁なコメンテーターたちが言い合います。視聴者は、テレビ局が巧みに敷いた構成に乗っかりながら茶の間から討論に加わる外野となるでしょう。新橋や銀座あたりで一般の人をインタビューした映像は、このプロズ&コンズ(是か非か)の議論に茶の間を一層巻き込んでいきます。最近は、視聴者のツイッターを画面テロップに流す手法も見られるようになりました。

 

私たちは無意識の内にこれらの情報に誘導されているかもしれません。そうなった時、私たちは限られた情報の中で分かったような気になりがちです。分かりやすい情報の氾濫は、情報に対する“慣れと愚鈍“を引き起こします。いつしか画面に流れる情報をスクロールする指の速さばかりが増していくでしょう。

 

 

■情報の「すきま」を読む大切さ

 

一つの出来事には様々な要因や背景が絡み合っているものです。誰にでも分かりやすくするために情報を単純化することは、事実を削ぎ落とすことでもあります。白と黒の間にはグレーがあるし、AとBの間にはA-やB+があるかもしれない、好きと嫌いの間には好きでも嫌いでもないが存在するかもしれません。単純化された情報の裏や間に目を向け、疑問を抱いて情報と向き合うには、知らないことを知り、分からないことを調べ、考える癖をつけておくことが大切です。難しいことを避けることも、思考停止することもやめませんか。一見とっつきの悪い難しいことにも、それを紐解くと面白いことや楽しいことが隠されているかもしれません。やわらかいケーキや口の中でとろける霜降り肉は美味しいけれど、堅い煎餅や煮干しもまた美味しく栄養となるように。