理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

科学実験に大活躍!国民的清涼飲料水

 

タイトルを見て「あのドリンクのことか」とピンと来た人は科学好きですね。そう、イオンサプライ、ポカリスエットです。1980年に発売されて以来、日本中で飲まれ続け、2008年には累計発売本数が300億本に達した国民的清涼飲料水です。

 

 

■小学生には難しくて高嶺の花だったポカリスウェット

 

80年代に小学生だった私がポカリスウェットを初めて口にした時の衝撃は、今でも記憶に残っています。甘さは感じるものの、はっきりしない水のような味…。当時、小学男子たちが虜になっていた飲料と言えば、王道のコカ・コーラをはじめてとしてファンタ・スプライト・アンバサ・メローイエローなど鮮やかな色合いに甘くてパンチの効いた味の炭酸飲料でした。ポカリスウェットは、王道に反して無炭酸で薄い乳白色です。しかも、ブルーを基調としたデザインの245ml缶の値段がコカ・コーラなどよりも20円高く、小学生が自販機のボタンを押すには躊躇いがありました。そんなポカリスエットが本格的スポーツ飲料として認知され始めると、私の通っていた小学校では水筒の中身としてポカリスウェットが許可されるようになりました。スポーツ系男子たちは、粉末を水に溶いたポカリスウェットを水筒に入れてくるようになり、麦茶しか注いでもらえない同級生から羨望の眼差しを向けられたものです。

 

微妙な味と高めの価格、発売当初、小学男子に支持されなかったポカリスウェットがスポーツ飲料としてお堅い学校にも認められるようになったのは、飲料としての立ち位置が一般的な清涼飲料とは異なっていたからです。

 

 

■ポカリスウェットは"汗の飲料”―開発秘話ー

 

ご存知のようにポカリスウェットを開発したのは大塚製薬です。製薬会社の発想らしく、新飲料開発の原点は"飲める点滴薬”を作ることでした。点滴薬はブドウ糖液糖を主成分に必要な薬剤が混合されています。ブドウ糖は単糖類といって消化を必要とせず、血管から体内に直接吸収される炭水化物です。ブドウ糖は、病人が素早く栄養補給するのに適しているため、"飲める点滴薬”という発想は理にかなっていると言えます。開発の試行錯誤が進む中、新飲料のコンセプトは"汗の飲料”に定まりました。人間は発汗すると水分を失います。汗には水分以外に塩分とわずかなミネラルが含まれており、発汗し続けると体に必要な水分と電解質が失われてしまいます。そこで、失われた水分と電解質を素早く補うには汗に近い成分の飲料を摂取すれば良いという発想の下、1000種類以上の試作品が作られました。

 

しかし、汗に近い成分の飲料となると味に難があるのは想像に難くありません。発売当初、営業担当は、販売店と消費者から理解を得るのに大変な苦労をしたそうです。コーラやファンタと同種の新飲料としてポカリスウェットを捉えていた当時の小学生が「なんだこれ」と思ったのも無理はありません。

 

 

■科学実験の強い味方!

 

塾で「糖」の実験を行うにあたり、必要な部材をスーパーマーケットまで買い出しに出かけた時のことです。ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、エリスリトール、オリゴ糖etc.、糖に関連する食品の現状を調べようと、片っ端から食品を手に取り成分表を眺めていました。(買い出しの時でなくても職業柄よくやってしまいます。平日の昼間に食品の成分表ばかり見つめる中年男性…やばい。)手に取ったポカリスウェットの成分表を見て、「すごい!」とはしゃいでしまいました。(心の中で)

 

ポカリスウェットの原材料(大塚製薬ホームページより)

砂糖(国内製造)、果糖ぶどう糖液糖、果汁、食塩/酸味料、香料、塩化K乳酸Ca、調味料(アミノ酸)、塩化Mg酸化防止剤(ビタミンC)

 

ポカリスウェットには、これまで数々の理科実験でお世話になっています。

 

①電池の実験では、電解液として…

亜鉛版と銅板をポカリスウェットに入れると電気が流れます。原材料の食塩・塩化K・乳酸Ca・塩化Mgは、溶液中ではナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムのプラスイオンと塩化物・クエン酸・乳酸のマイナスイオンとなりますから、電子の流れが生まれるわけです。

 

②豆腐の実験では、にがりとして…

大豆をすりつぶして濾した汁(ごじる)ににがりを入れると豆腐ができます。にがりの代わりにポカリスウェットを入れると甘いポカリ味の豆腐ができます。ごじるのタンパク質を電気的に結合する働きをするのが、マグネシウムイオン(2価の陽イオン)です。このマグネシウムイオンはにがりの主成分でもあり、汗に含まれるミネラルでもありますから、ポカリスウェットに含まれています。

 

③還元剤ビタミンC

中学や高校の化学で登場する酸化と還元を覚えていますか。酸素と結びつき電子を失うのが酸化で、その逆が還元です。ポカリスウェットに限ったことではありませんが、ビタミンCは酸化防止剤としてお茶やジュースなどに添加されています。ビタミンC(薬品名をアスコルビン酸という)は還元作用のある物質で、お茶や果汁が酸化されて風味が悪くなるのを防いでくれます。理科実験では、茶色のヨウ素液にビタミンCをたらして無色透明にする還元実験が定番です。

 

④単糖類のブドウ糖と果糖

果糖ブドウ糖液糖はアイスクリーム・かき氷シロップ・清涼飲料水などに添加されています。上白糖やグラニュー糖などのいわゆる砂糖は二糖類といいまして、同じ糖でも分子構造が異なります。前述の点滴薬でも述べた通り、単糖類は消化する必要がなく吸収されるのに対して、二糖類である砂糖は、消化して単糖類にしないと吸収されません。単糖類である果糖は砂糖より甘みが強く、特に低温で甘みを発揮することからアイスクリームや清涼飲料水に添加されています。

 

イオンサプライ、化学満載!さすが製薬会社が開発した飲料です。ポカリスウェットが国民的清涼飲料水としての地位を確立した所以に頷けます。一方で、ポカリスウェットが"汗の飲料”であるということから、私たちの体がいかに化学的な組成をしているのかを改めて痛感させられます。

 

追伸)理科実験で便利な、濃度調節が可能な粉末タイプまで開発してくれた大塚製薬さま、ありがとうございます。理科実験なんて想定された使い方ではないでしょうが…。

 

 

 

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