理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

数字や形に見えないから価値がある

TBSドラマ「G線上のあなたと私」は、同局で話題となった「カルテット」の再来と一部のネット民の間で囁かれているそうです。大人のバイオリン教室で知り合った、年齢も立場もまちまちな3人の生徒を中心に繰り広げられる心の動きや人間模様が繊細で共感を呼びます。私は仕事柄、塾や教室を舞台としたドラマを好みがちで、毎週火曜日が待ち遠しくなる"G線”は今年のマイヒットです。

 

終盤に差し掛かった第8回では、バイオリン教室の眞於先生が、手の持病の再発によりプロへの道を挫折し、バイオリン教室も退職してしまいます。失意の底にいた眞於先生は退職の日にボイスレコーダー付のチューナーを手渡されます。そこに録音されていたのは、3人の生徒がプライベートコンサートを開催した際に、主人公小暮也映子が話したスピーチと、3人が演奏した"G線上のアリア”でした。

 

『大人のバイオリン教室は、いろんな人がゆるっとふわっとバイオリンだけでつながっている場所なので、上手くなったところで何の役にも立たないし、別にどうしても続けなきゃいけないとか、そんなこともない。仕事や学業が忙しくなったり、家族に何かあれば、まず一番最初に生活から消える。そういうものです。

…(中略)…

でも、少なくとも私は、眞於先生のバイオリンが大好きで、先生のおかげでここまでこれた。きっと、私はこの先たとえバイオリンを続けてなかったとしても、何度も何度も先生が出会わせてくれた音楽に救われると思います。眞於先生は、私にそういうものをくれました。』(原文のまま)

 

録音された也映子のスピーチを教室の片隅で聞き入る眞於先生、『まさか、こんなことになるとは思わなかった。私、救われてしまいました、あの3人のバイオリンに。』と言い残し、教室を去ります。

 

 

私が生徒に伝えたい学びは、理科実験の試行錯誤や考察を通して育む探究する姿勢や思考する力です。このような姿勢と能力は、テストの点数UPや合格のような目に見える成果と異なり、一朝一夕で身につけられる訳ではありません。常々、生徒や保護者には、「興味・思考力・行動力を育むには、継続が必要であり、時間がかかります。教室の外でも科学への眼をもって行動するなど、長い視点で成長を捉えてください。」と話しています。とはいうものの、教えている私自身も、目に見えにくい成長をどうしたら生徒に実感させられるのか、理科実験から学ぶ意義と学ぶ面白さを生徒に与えられているのか、と自問自答する毎日です。

 

それでも私がこの仕事を好きでいられたのは、生徒や保護者の方から掛けてもらった何気ない言葉のおかげです。「理系分野に目標を見つけて行きたい高校を決めた。」・「日常の中で科学の存在に意識が向くようになった。」・「家族ぐるみで科学の話が食卓の話題に上がっています。」等々。また、在籍していた生徒たちの成長した今を知った時、僅かでもその成長の通過点に関われたかもしれないと、勝手に救われています。(もっとも、教え子たちは、裕福な家庭環境に育ち優秀揃いであり、本人たちの努力によって成長できている訳で、私は彼らの一助にすらなれたかどうか分かりません。)

 

塾の経営者として目に見える成果は、売り上げや利益です。私も家族を養い生活していかなければなりません。また、経営者である以上、教室を軌道に乗せることが現実世界で迫られた責務です。しかし、私が、子どもたちに成長の核となるような"好き”や"気づき”を与えられていると実感できる瞬間が私の生きる糧でもあります。

 

 

人は、目に見えて分かりやすい数値や形を目標とすることで安心してしまいがちです。学生ならば、テストの点数や受験合格を追いかける、部活で勝利至上主義に傾倒する。社会人であれば、売り上げや利益を追いかける。上司からの評価や出世を追い求める。いずれも現実世界で迫られた必要ですが、それらは例えると車とガソリンのようなものです。性能の良い車と満タンのガソリンを用意できても、どこに向かって何のために車を運転するのか、ドライバーが目的と意志を持たなければ幸せなドライブはできません。勉強の中に面白さを発見する。目標を見据えた勉強がある。勝利に向かうプロセスの中に競技への愛情や向上心を抱く。お客の信頼と満足を得る。ビジネスを通して社会への創造や変革を築く。どんな自分になりたいのか、何を好きで大切にしたいのか。本当に価値のあるものは数字や形で見えにくいところにあるものです。

 

 

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