理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

成績を伸ばせる人の模試活用法

今年度の受験生は、コロナ休校の影響を受けて不利だとか、かわいそうだとか囁かれています。一部の入試では、学校で消化しきれない単元を出題範囲から除外するなどの救済措置がとられるようです。事態を受けてそのような入試対応となったのでしょうが、例年と比べて今年度の受験生は本当に不利なのでしょうか。同じ時代の状況に置かれている点で多くの受験生はイコールコンディションにあります。その上今年度の受験生は、休校措置により有り余るほどの時間を手にできた訳ですから受験勉強にその時間をつぎ込めたはずです。もっともこれは、勉強は個人戦であり自分で取り組むものという前提に立った見方ですので、人から指導と指図をされなければ勉強できない受け身型の人にとって現状は酷なものかもしれません。

 

兎にも角にも入試まであと半年足らずとなり、受験生は更なる踏ん張り時を迎えています。残りの期間にかけて受験生は幾度かの模試を受けながら、受験勉強に励んでいくでしょう。

 

ところで、忙しい受験生の方へ、鉛筆を握る手を休めて考えてほしい問題があります。

「あなたは模試と正しく向き合っていますか。」

模試とは受験勉強においてどのような意味を持ち、役割を果たしているのか。模試の結果に一喜一憂している人に考えてほしい、模試の正しい活用法を指南していきます。

 

 

■模試とは、あくまでも試運転

 

模試には、誰もが緊張する面持ちで挑むでしょう。志望校の判定までついてくる模試ならば、本番前に合格不合格を宣告されるような気持ちになり、緊張感はなおさら高まります。

 

しかし、ここで一歩引いて考えてみてください。模試とは模擬試験の略語です。模擬とは、模して擬える(なぞらえる)、つまり本番の入試に“似せた擬(まがい)もの”という意味です。まがい物などと言っては、出題者や受験生に失礼な表現ですが、決して模試を侮辱しているわけではありません。模試とはあくまでも試運転であるので、過度に緊張する必要はありません。

 

出題者は、長年に渡り蓄積された入試データを分析してどの入試にも一般化した内容を選りすぐり模試を作成しています。模試の問題は、各教科各分野の普遍的な学力レベルを測定する目的で作られています。ゆえに受験生が現状の勉強の成果と問題点とを把握するのに適しています。実際の入試問題とは、出題者・問題形式・量・時間配分・受験者の人数とレベルが異なっていますから、模試の内容と結果がそのまま入試の内容や結果を表すわけではありません。とは言っても模試の結果と入試の結果とは高い確率で相関しています。したがって、模試の結果は現在のありのままの学力を表すものとして受験生は真摯にその結果と向き合わなければなりません。

 

模試は試運転のようなものです。試運転とは、新型車両が予定通りの性能で走行できるか確かめるための走行実験です。車両がホームと隙間を作ったり接触したりしないか、静粛性や振動はどうか、パンタグラフは問題ないかといった性能を測定機器を用いながらチェックします。模試で言えば、勉強してきた内容を正しくアウトプットできるか、解答する際に利用する用法を見分けられるか、時間配分は適切にできるか、不要な焦りや不安は起きないか、といった自らの現状の性能(学力)をチェックしなければなりません。

 

 

■模試を目標にしてはいけない

 

ほとんどの方にとって、模試の結果が返却されると真っ先に目をやる箇所は偏差値や順位なのではないでしょうか。それは当然のごとく気になる点ですが、問題なのは、結果に一喜一憂するあまり、模試の結果を向上させて優越感や安心感を得ようと意気込む受験生が現れることです。上述した通り、模試は本番の入試とは環境が異なる試運転です。模試の成績を上げるために模試用の対策をしても意味がありません。対策すべきは、志望校の入試問題に対する最適化のはずです。模試の結果と入試の結果とに高い確率で相関関係があると先に述べました。確かに、E判定を受け続けていた受験生が合格を勝ち取る可能性はほぼゼロです。しかし、A判定を受け続けていた受験生が不合格となる可能性は十分あり得ます。受験の世界で試運転の成功が目標になってしまっては、本末転倒と言わざるを得ません。

 

 

■現状を分析し、今後の方向性を見直そう

 

では、模試とはどのように向き合えばいいのでしょうか。模試を終えたら、開放感にまかせて遊びたい気持ちを堪えて一両日中に見直しを行ってください。この見直しという作業の方法が模試の活用度を左右します。

 

よくある方法として解答書を並べて丸付けを行い、不正解だった問題について解説を読むという作業があります。この作業方法は一見すると見直したような気にさせてくれますが、正誤判定をしたにすぎません。明確な根拠が無いまま正解した問題は置き去りにされる可能性があります。また、不正解だった問題の解説内容は、時間が経つと恐らく頭から消え去ってしまいます。

 

問題文をどのように解釈してどのように解答を導いたのかについて一問ずつ丁寧に分析してみましょう。不正解だった問題に関しては、どこでなぜ誤ったのか(ミスや勘違いなのか、誤った用法を用いたのか、問題文を読み込めていなかったのか etc.)を余白に記したメモ書きも辿りながら探りましょう。未記入だった問題に関しては、どこまで理解できていたのか、問題の雰囲気に圧倒されて避けてしまったのか、そもそも超難問や未学習の分野だったために打つ手がなかったのか etc.を考えてみましょう。

 

一問ずつ丁寧に分析することで理解を補強すべき点(学習したはずの内容を適切にアウトプットできていない 、問題文の読解力が弱い etc.)や直すべき癖(記述式問題を試合放棄してしまう、時間を気にしすぎて図やメモを雑に書いてしまう etc.)が見えてきます。できた点とできなかった点を洗い出せば、点数や偏差値では表せない理解の到達度を測れます。こうした分析を終えたら、これまでの勉強方法から継続すべき点と見直すべき点とを検討して、今後の勉強の方向性を決定します。

 

模試とは普段の勉強の効果を測定しつつ、日頃見落としがちな弱点を見つけ出す場です。模試で高偏差値を取り続けなければならないと思い込んでいる人は、その呪縛から自らを解放してください。数か月ごとに勉強方法を総点検して、今後の方向性を確認できれば模試代の元が取れます。模試の結果が悪かった人も入試本番の日までに目標とする学力に到達すればいいのですから。

 

 

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