理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

頑張る人に立ちはだかる壁の正体

近年ヒットする曲にはある傾向があるらしい。それは、序奏からサビまでが意図的に短く作られているという点です。ネット配信された新曲をダウンロードして聴く時代ですから、早くサビが登場する曲は分かりやすく受け入れられるのだそうです。現代はネット社会です。何事もスピードや効率が最優先されます。そうした時代の風潮は流行歌の曲作りにも反映されているようです。

 

学問の世界では、文学・哲学・理化学における基礎研究など直ぐに社会の役に立たない分野は軽視され、医療・情報・科学技術など国家の政策に貢献する分野には手厚い予算が配分されています。

 

身近な教育においても同様のことがあてはまるようです。将来を切り開く力となるかもしれない普遍的な学力の向上よりも目先の点数取りや名門校への合格の方が多くの場面において優先されます。ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英先生はこうした教育の現状を憂い、『近頃の親は教育熱心ではなく、教育結果熱心だ。』と発言されています。

 

 

■学力が向上するという意味を考えてみよう

 

秋も深まりいよいよ受験勉強も大詰めを迎えようとしています。上がらない模試の成績ばかりを気にしている受験生とその親に見直してほしい前提があります。成績は頑張った勉強量に比例して上がると思い込んでいませんか。これをやれば偏差値がここまで上がるという効率の良い処方箋は残念ながらありません。

 

学力とは、知的好奇心を抱き、自ら課題と疑問を生み出し、思考する力です。虎の巻を暗記して運転免許試験に臨むような一朝一夕な勉強では身につきません。学力の向上は、様々な分野の知識とそれを活用する多様な能力(言語力・観察力・判断力・洞察力など)とが複層的に絡み合って達成できるものです。またそれは思春期の子どもたちの人間的な成長にも相関しますから、普遍的な学力の向上には時間を要します。

 

勉強を頑張っているにも関わらず成績が上がらないのは、勉強を頑張っているからです。トートロジー(循環論法)のような話に聞こえるかもしれません。もう少し分かりやすく説明してみます。勉強には何段階かのステージがあり、段階を上がる時にはこれまでとは異なる思考回路や学習姿勢が必要となるため、伸び悩む期間が発生します。これがいわゆる“壁にあたる”と呼ばれる症状です。

 

 

■5段階に分かれる学習ステージ

 

勉強はステージごとに学習する目標と内容が異なります。学習ステージを5段階に分けると以下のようになります。

 

第1ステージは、そもそもインプットされるべき知識が未学習の段階です。まず、基礎を習得するために例題などの基本問題を単元ごとに学ぶ必要があります。

 

第2ステージは、一度習った基礎を反復しながら抜け落ちている基礎理解の穴を埋める段階です。有名なエビングハウス忘却曲線によると、人は学習してから24時間後にその約70%を忘れてしまいます。一度習っただけでは定着しませんから同じ問題集を繰り返し学習する必要があります。

 

第3ステージでは、基礎理解の幅を広げていきます。オーソドックスな基本問題に条件や情報を付加した問題、つまり応用問題を扱います。様々なパターンの応用問題と対峙することにより、基礎理解を深め解き方の引き出しを増やすことができます。

 

第3ステージまでは知識や解法を理解しながら習得する“インプット”学習の段階です。インプット学習では知識とその理解は考える際の道具として蓄積されていきます。

 

第4ステージからは、蓄積した知識とその理解とを状況に応じて引き出し組み立てる“アウトプット”学習の段階に入ります。模試や志望校対策などの実践的な問題を数多く解きながら、これまで習得してきた知識や用法の活用術を身につけていきます。

 

最終段階となる第5ステージでは、問題と対峙する中で自ら仮説と疑問を起こしながら解決する能力を養います。こうしたらどうだろうか、この場合は真といえるだろうか、などと一つの問題を様々な角度から捉え、解答に至る複数の道筋を導けるようになります。このステージを卒業できた人は誰かに教えてもらわなくても自学していけますから、能力と可能性は無限に広がっていくでしょう。

 

 

■勉強を進めていく中で現れる最も高い壁

 

壁は、次の学習ステージに移行する際に現れます。中でも第3ステージから第4ステージへの移行期に現れる壁は多くの人にとって高い壁となりがちです。学習に励んできたにもかかわらず模試でその成果が表れない人は第4ステージに上手くステップアップできていない可能性が考えられます。というのも、第3ステージまでの学習は単元別に進められてきたからです。

 

例えば算数・数学では、速さや一次関数や相似図形などの単元ごとに学習が進められます。つまり生徒は、「今日の学習単元は三平方の定理だから、どの問題を解くにも三平方の定理を用いるのだ」という前提の下に問題と向き合います。この時すべての問題を解けたとしても実際の試験で三平方の定理を適切に使いこなせるとは限りません。模試や本番の試験では単元別に明示されて出題されるわけではないからです。加えて、複数の単元を組み合わせた問題も出題されますから、どの単元が隠されているのかを見抜き、どの用法をどんな順序で用いるのかを組み立てる力が求められます。

 

単元別にインプット学習した知識と理解は個別に習得されています。バラバラに格納された知識と理解を紐づけしながら体系的に整理し直しましょう。

 

 

■壁にあたり続ければ乗り越えられる

 

先ほどから述べているように、勉強を進めてきたからこそ壁が現れます。壁にぶつかった時は誰でも苦しくてしんどいかもしれませんが、そこであきらめてはいけません。今まさに、次の学習ステージへ上がるタイミングがやって来たのです。ただ、今の学習ステージを卒業するには何かが足りません。

 

それを確かめる方法として、これまでインプットされた学習内容についてその意味まで理解できているかの見直しをお勧めします。例えば、円の面積の公式【半径×半径×3.14】は知っていても、なぜ【半径×半径×3.14】が円の面積となるのかという意味まで理解していなければ実践的な問題に対応できません。インプット学習の段階ではたくさんの知識や解法を吸収しなければなりません。ゆえに知識や解法の意味を考えず機械的に暗記する学習に陥りがちです。

 

月並みな言い方ですが、基礎理解を固めた後はひたすら実践問題と格闘し続けるしかありません。そうすることで、インプット学習に慣れた脳をアウトプット型の脳に少しずつ変えていけます。

 

学力の向上は人間力の向上でもあります。受験生も親も目先の数字に躍らされることなく、何のための勉強なのかを今一度考えてみてください。

 

 

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