理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

理科の理を考えれば賢くなる

「理科と社会はどのように勉強すればよいのでしょうか?」

勉強に行き詰った生徒さんからこのような質問を受けることがあります。以前のコラムでも理科と社会の学び方について綴りました。

こうした質問をする人の共通点に「理科と社会は暗記科目だ」との思い込みがあります。確かに用語や化学記号・地名や年号など覚えなくてはならない知識はありますが、本当に理科と社会は暗記で乗り越えられる科目なのでしょか。今回は理科を例に考えていきます。

 

■理科という教科との向き合い方

 

小中学校で誰もが一度は学んだ理科の単元に“植物の光合成”があります。「光合成とは?」と尋ねれば、「二酸化炭素と水を葉に取り込み光を浴びると、酸素とデンプンが合成されること。デンプンは植物の養分となる。」と多くの方が答えるのではないでしょうか。高校で生物を選択した人であれば、葉緑素クロロフィル・ATPなどさらに詳しい用語を用いて、その仕組みを説明するでしょう。兎にも角にも定期テストの穴埋め問題にこれらのキーワードを解答すれば“マル 〇”がもらえますから、そういう意味で光合成の単元はこのような暗記で乗り切れます。

 

しかし、光合成の話はその働きを本質的に捉えれば、キーワードを覚えるだけに終わらない単元となります。

 

光合成の定番実験に、エタノールで脱色したアサガオの葉にヨウ素液をたらしてデンプンの存在を確認するものがあります。アルミホイルに包まれていた葉にはヨウ素デンプン反応が現れない結果から、光合成に光が作用していると学習します。

 

理科を暗記科目と捉えている人は、「植物は光を浴びて自分で養分をつくり出し、それを体全体に送っているんだな。」と理解して単元の学習を終了します。一方で本質的な捉え方をしている人には、いくつかの疑問が湧くかもしれません。

 

「デンプン(分かりやすい例として片栗粉)は水に溶けにくいのに、どうやって体全体に送られるのだろうか?」

「じゃがいもはデンプンのかたまりだけれど、葉でつくられたデンプンが地下茎まで送られているのだろうか?」など…。

 

発展内容まで載せた参考書では、葉で合成されたデンプンが糖に変えられて師管を通り体全体に送られると記載されています。糖なら水によく溶けますから疑問は解決されます。しかし、さらに鋭い視点を持つ人ならば、以下の新たな疑問を抱くでしょう。

 

「植物はどこでどのようにしてデンプンを糖に変えているのだろうか?」

 

デンプンが糖に変えられる話は、ヒトの消化の単元でも登場します。小中学生の時にキャーキャー騒ぎながら、クラスメートの唾液を試験管に採り、お米つぶ(デンプン)を消化させる実験を行った経験はありませんか。この実験では、唾液に含まれるアミラーゼがデンプンを麦芽糖に、小腸から分泌されるマルターゼが麦芽糖ブドウ糖に変えると学習します。これを踏まえると、唾液や胃腸を持たない植物がデンプンを糖に変える仕組みは興味深い探究対象に思えてくるかもしれません。

 

じゃがいものデンプンは、葉で合成されたデンプンが糖のかたちに換えられ地下茎に送られた後に再びデンプンへ変換されたものということになります。糖からデンプンを合成する、ヒトの体には存在しない機能を植物は有しているわけです。興味を持って深く考察すればするほどに、植物の光合成という単元はますますその奥行が深まります。

 

 

■教科書は単元の入り口にすぎない

 

教科書に載っている知識を覚えるだけで、その単元を知ったことにはなりません。教科書に書かれている基礎知識を元に興味や疑問を膨らませれば、理解は深まり、新たな学びの扉が現れます。

 

光合成の単元が教科書の太字だけに終わらない例は、他にも転がっています。

 

教科書ではアサガオやじゃがいもなどの双子葉類の光合成しか扱われませんが、イネやトウモロコシなどの単子葉類の光合成ではデンプンではなく最初から糖が合成されています。その証拠に収穫したてのトウモロコシは甘みが感じられます。ところが、時間が経つほどその甘みは消えていきます。これは、光合成でつくられた糖がデンプン合成酵素によってデンプンにつくり変えられていくからです。そこで、甘さを保つためにトウモロコシは収穫されるとすぐに茹でられ冷凍されます。

 

トウモロコシの実は私たちにとって美味しい食材として食されますが、トウモロコシにとってその実は次世代の発芽に必要な養分として蓄えられなければなりません。そのため、トウモロコシの実は保存に適したかたちに変換される必要があるわけです。水に溶けやすい糖から水に溶けにくいデンプンに変えれば、雨が降っても養分が溶け出しません。じゃがいもがデンプンのかたまりである理由も同様です。

 

植物の光合成をこんな風に捉えれば、植物が持つ神秘と不思議に感動を覚えます。道端に生えている雑草を引っこ抜くのも忍びない気持ちになるかもしれません。

 

 

■理科から育むチカラとは

 

理科という教科では、そこに潜む原理原則の本質を突き詰めると思考力や観察眼が育まれます。本質に基づいた疑問を抱けば、日常生活にまつわる事象に対して好奇心と観察を深め、調べ考えるようになります。そうした行動は、社会人になった際に必要とされる“問いをたてる力”を育みます。学生の内は“問い”は与えられるものと認識しがちですが、“問い”は社会に用意されているものではなく、自分で発見しなければならないものです。

 

理科とは、道“”を立てて考える“”目、つまり物事に対して筋道を整え論理的に考える科目であるといえます。理科を暗記科目だと思い込んでいると、自然科学の楽しさに気づけないばかりか、ものの見方が表面的になり本質的な理解に至りません。

 

定期テスト直前になって赤い暗記フィルムと理科ノートを片手に通学している人は、今日から理科との付き合い方を変えてみることをお勧めします。

 

 

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