理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

脚本から学ぶ授業づくり

■3つの恋愛ストーリーが同時進行する「コイハハ」

 

昨年末にエンディングを迎えたTBSドラマ「恋する母たち」(コイハハ)では3人の既婚女性にまつわる恋愛模様が描かれています。長い結婚生活の中で不満や悩みを抱えながらも仕事に子育てに日々を過ごす女性たちの姿からドラマは始まります。そんな3人の女性の前に3人の男性たち【失踪した夫の不倫相手の元夫・一回りも若いエリート部下・女性に一目惚れしたバツ3の落語家】が現れ、それぞれの恋愛ストーリーが展開されていきます。このドラマの特徴は、3つの独立した恋愛ストーリーがママ友同士でもある3人の女性を介して同時進行していくところにあります。

 

通常、こうしたドラマは登場人物も多く、複数のストーリー設定が立てられるために話が煩雑になりがちです。視聴者はストーリー展開を追うことに忙しくなり、登場人物の心情変化を読み取りながら話に入り込むどころか、頭の中で整理がつかなくなってしまいます。

 

ところがこのドラマは、3つのストーリーの場面が頻繁に入れ替わりながらも、それぞれのストーリーが何の混乱もなく頭に入ってきます。どれか一つのストーリーが際立つわけではなく、すべてのストーリーが各々に軸を持って進んでいきます。しかも、息子や夫などの人物像やストーリーも丁寧に描かれていてストーリーに奥行きを与えています。

 

 

■ドラマに仕組まれた仕掛けを考えてみた

 

このドラマが煩雑にならずに分かりやすく見ごたえのあるドラマに仕上がる仕掛けはどこにあるのでしょうか。私は脚本を書いたことなどありませんが、僭越ながら以下のように考えてみました。

 

1.脇役に至るまで人物像の設定が緻密であり、ストーリーの伏線がしっかり張られているため、ストーリーが印象づけられやすい。

 

2.3つの恋愛ストーリーは独立しているものの、息子の学校でつながるママ友・息子同士が友人という共通項が3つのストーリーを結び付けている。

 

以上のことから、テロップやナレーションなどがなく場面が切り替わっても、視聴者は3つのストーリーの同時進行を自然に受け入れられたのではないでしょうか。

 

ドラマ批評みたいになってしまいましたが、私のような者が偉そうにドラマを批評するつもりは毛頭ありません。私はこのドラマを視聴しながら「脚本は授業進行のお手本だ」と気づかされたのです。

 

 

■脚本と理科実験の授業進行との共通点

 

理科実験では実験の内容により待ち時間が発生する場面があります。ゆっくり化学反応を起こす物質・長時間の保温(恒温)を要する試料の下準備などが“実験待ち”を発生させます。料理の工程に例えれば、あく抜きをしたり煮込んだりオーブンで焼いたりする時の待ちと似ているでしょうか。

 

待ち時間は授業の進行に不要な間を与えてしまいます。一人で黙々と行う料理であれば、煮込み中に他の料理の準備をして時間を有効に使えます。しかし授業においては、生徒に興味を引かせながら考えさせなければなりません。また、決められた授業時間内で実験テーマを完結させなければなりません。むやみやたらに待ち時間を他の作業(学習)にあてれば、実験のテーマや目的がぶれて煩雑で分かりにくい授業となってしまいます。

 

コイハハの脚本は、こうした“実験待ち”問題の解決にヒントを与えてくれます。待ち時間を利用して他の実験を同時進行させる場合には、以下の点に注意して実施するといいでしょう。

 

 

1.実験の目的を明確にする。

 

これからどんな実験をどういう目的で行うのかを生徒に伝えて意識づけさせなければなりません。一言で言えば当たり前で簡単なように聞こえるかもしれませんが、一般的にはこれが意外とできていません。指導者の言われるままに生徒が実験を進めてしまうと、実験の目的や意味が曖昧になり生徒の理解は捗りません。まず実験の内容を身近なものへ置き換えることで、生徒に疑問や問題意識を膨らまさせてから実験に臨ませます。

 

これは、ドラマの脚本で言うところの“ストーリーの伏線をはる”仕掛けに似ています。ストーリーが走り出せるように伏線を散りばめておくことで視聴者はストーリ―の展開が気になり始め、話に入り込みやすくなります。

 

 

2.複数の実験を共通項でくくる

 

そもそも理科実験は道具を用いて作業も行うため、情報量が多く煩雑になりがちです。一つの実験を行う場合でも目的と情報を整理しなければ良く分からないままに終わってしまいます。待ち時間に他の実験を組み込み同時進行させる際には、実験同士が同じテーマや目的で相互に繋がっていなければなりません。

 

例えば、デンプンが酵素により糖に分解される実験とデンプンと糖の分子の違いをみる実験とデンプンから飴をつくる実験とを行うとします。それぞれの実験は、消化の条件・消化される理由・味覚変化による消化の確認という異なる視点と目的で行われます。しかし、3つの実験はいずれもデンプンから糖への消化という共通のテーマの下で括られ、相互にテーマの理解を深めていきます。

 

こちらも、3つの恋愛ストーリを結び付けた“登場人物の共通項”という脚本の仕掛けに通じているかもしれません。

 

 

理科実験に限らず、どの教科の授業もその展開を組み立てる必要があります。それはつまり、授業づくりはストーリーをつくる脚本づくりといえます。魅力的な脚本は生徒の興味と積極性を引き出すでしょう。学校参観に出席すると思わず脚本を書いてあげたくなるような授業に出くわす時がありますが、自戒も込めて教職につく方々は魅力的な脚本を書けるように努力していかなければなりません。

 

 

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