理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

学びの先にあるもの

先日、悩み多き中3男子と談笑する機会がありました。高校生と見紛えるような風貌の彼から「このオジサンは説教臭い」と思われないように私は緊張しながらも、学ぶことの意味などを話しました。すると彼から「どうして勉強しなければならないのか、この問いに明確な答えを出せる大人は少ないですよね。」との発言がありました。

 

世間の大人に尋ねてみましょう、なぜ学びは必要なのでしょうか?

 

「勉強は学生の本分だから」

「受験に合格するため」

「頭を良くするため」

「いい会社に就職するため」

「経済的に自立した大人になるため」

内申点をとるため」

「いい大学に進学するため」

「クラスメートに負けないため」

「周囲より優位に立つため」

「大人になるため」

「親や先生を安心させるため」

「人生は競争だから」

etc.

 

こうした学びの理由を学生時代に誰もが周囲の大人から一度は耳にしたのではないでしょうか。いずれももっともらしい回答ですが、学びの本質に触れられていません。いい大学に進学することにも、いい会社に就職することにも価値を感じられない学生が、「三角関数やファントホッフの法則は何の役に立つのか」と勉強する意味に疑問を感じてしまうのも無理はありません。一方で親御さんからは、「上記に挙げた回答の何が間違っているのか、当然ではないか」とお叱りを受けそうです。

 

優秀な教育関係者や自己を確立している大人の中には、この問いに対する明確な回答をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。明確な回答は一つではありませんが、私は学びの目的を以下のように考えています。

 

学びは、個性ある大人になるために存在する。

 

ここでいう個性とは人を傷つけたり、人を苦しめたりしない多様な知性の在り方を指します。

 

 

■無意識の偏見に気づける人になるために―イギリスの中学校の実験授業から―

 

NHKの番組「ドキュランドへようこそ」は、海外の秀作ドキュメンタリーを紹介しています。先日、イギリス発の「人種差別をなくす授業風景」が放送されていました。

 

舞台となるロンドンの中学校では、白人・黒人・アジア系など多種多様なバックグラウンドを持つ生徒が在籍しています。学内では人種による生徒の分断はなく、良好な人間関係が築かれています。

 

ある大学のチームが3週間にわたり、生徒たちを人種別のグループに分けるなどの実験を行いながら、生徒たちの内に潜む人種差別の意識をあぶりだしていきました。人種差別に苦しむ同級生の現実や無意識に潜む差別意識の存在に生徒たちは気づかされ、動揺を隠せません。生徒はそれぞれの立場から心の内を発言し合い、人種差別とは何かを考えていきます。

 

この中学校の生徒たちは、教育意識の高い家庭で育てられた、日頃から人種差別への嫌悪感が強い優秀な子どもたちだと思われます。彼らは実験結果に驚きを抱きながらも、その事実と客観的に向き合い、思考を巡らせていました。無意識の偏見がもたらす壁の存在に気づき、今後どのように無意識の偏見と向き合っていくべきかを自問自答しつつ話し合う。これこそが学びの本質であり、学び考える力を高める機会となります。

 

 

■教科の勉強を通して得られるもの

 

国語や英語のような言語科目は、考える力の土台となります。人間は情報や物事を言語化して認識し、考えを構築するからです。ゆえに、語彙力の乏しい人・文章を組み立てられない人は情報を受けとる際にも発信する際にも意味を深く捉えきれません。

 

数学や理科のような科目では、小難しい公式や法則や図形自体が仕事や日常生活に直接役立つわけではないかもしれません。しかし、理数科目は、数式や法則を学ぶ中で論理的な考え方や規則性のとらえ方の引き出しを増やしてくれます。

 

社会や実技科目は、私たちが営む社会に対して興味関心を広げ、社会への問題意識や参加意識を高める働きをもっています。

 

 

■学びを軽視する人の顛末

 

目の前の情報に対して、その情報の真偽を調べ考え判断する。当たり前のことですが、学び考える力が劣っている人はこれが上手く機能しません。本質をとらえる力はなく、冷静な判断はおろか、客観と主観を区別できないからです。

 

その結果、ステレオタイプに陥りがちであり、自分に都合のいい根拠を求めて感情の赴くままに行動します。噂を求め、噂に連帯感を感じ、噂に共感する。同種の人間同士で集団を形成し、異質なものを排除し、自らの優位性を維持しようと努める。一般にこれは同調圧力と呼ばれています。最悪なのは、自分たちが社会から多様性を奪い、人を傷つけ苦しめている事実にすら気づいていない点にあります。

 

 

■学んで個性を育め

 

人間は過ちを犯す生き物です。しかし、学び考える力を育める生き物でもあります。上述したイギリスの中学生のように、人は事実と向き合い考え続ける営みができます。

 

寄り添うだとか助け合うだとか人間美に満ちた言葉が方々で謳われていますが、それらを実現するには一人一人が興味関心の幅を広げ、想像力を育む努力が不可欠となります。

 

すなわち学びは個性を創造します。個性ある人が増えることは社会に優しさと創造をもたらすでしょう。学生の皆さん、操作された情報に知らぬ内に流される大人になってはいけません。画一的な大衆の一人になるよりも個性ある大人になる方を目指して学びに励んでください。

 

 

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