理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

算数&数学から本質を見抜く力を育むには

6月16日付けのコラム「算数&数学は筋書き力で攻略する」でも述べたように、算数&数学は、計算力でも公式や解法の知識量でもなく、本質を見抜きストーリーを組み立てる言語力がものを言います。

今回は、本質を見抜く力について、中学受験算数と中学数学とを比較しながら考えていきます。

 

 

 

■同じ問題の解法でみる中学受験算数と中学数学との違い

 

中学受験算数で頻出される問題を例に挙げて、その違いを検証してみましょう。

何人かの子どもたちにえん筆を5本ずつ分けると15本あまり、8本ずつ分けると6本足りなくなってしまいます。えん筆は何本あるか。答えなさい。【相模女子大学中学部】

 

いわゆる過不足算の基本問題です。小学生は情報を面積図に書き込みながらこの問題を紐解いていきます。この問題のポイントは、鉛筆の分配数を変えると鉛筆の過不足数が変化する仕組みを見抜けるかという点にあります。

 

鉛筆を5本ずつ配った時と8本ずつ配った時に生ずる本数の差は、

15+6=21本となります。

 

本数の差が最終的に21本となる理由は、

子ども一人に配るごとに8-5=3本の差がつくからです。

 

これを見抜ければ、子どもの人数を求められます。

21÷3=7 子どもの人数は7人となります。

 

問題で問われているのは鉛筆の本数ですから、子どもの人数を問題文にあてはめます。

5×7+15=50または8×7-6=50

 

答え 50本 

 

 

同じ問題を中学の数学は一次方程式(連立方程式)を用いて解きます。

求めたい鉛筆の本数をyとします。

子どもの人数が分からないので、子どもの人数をx人とします。

 

鉛筆の本数は、以下の通り2つの一次方程式で表せます。

y=5x+15とy=8xー6

 

鉛筆の本数yは同じ数なので、5x+15=8xー6 ゆえにx=7

 

xの数値を方程式に代入します。y=5×7+15 y=50

 

答え 50本

 

もちろん、どちらの解法でも答えを導けますが、2つの解法にどのような違いがあるのか、皆さんはお気づきですか?

 

中学受験算数では、「一人当たりの分配数を変えると、全体の過不足数はなぜ変化するのか?」という本質的な仕組みに焦点を当てています。小学生は、xやyなどを用いる代数を習っていませんから、方程式以外の方法でこの問題を解かなければなりません。ゆえに、問題文に書かれた事象の“なぜ”を考える必然があります。

 

対して、中学数学では、不明な数値(子どもの人数と鉛筆の本数)をxとyという変数に置き換えて数式を組み立て、一飛びで解答に辿り着いています。一次方程式y=ax+bという“代数の定型”に当てはめれば、分配数と過不足数の関係性を考えずとも機械的に解けてしまいます。5x+15=8xー6 → 3x=21 → x=21÷3 と一次方程式が変化する過程において「21÷3」の意味を考えずに解いている中学生は多いはずです。もっとも、中学受験を経験してきた、或いは地頭の良い中学生ならば、数式の意味を理解しながら解いているでしょう。

 

誤解の無いように断っておきますが、代数学は中学以降の数学で大切な単元です。代数学を用いれば、世の中の複雑な事象を数式で一般化できます。代数学は、ネット・携帯・ATMなどの身近な技術からスパコン通信衛星・ロケットのような特殊な技術に至るまで世に溢れるデジタル技術のアルゴリズムとして私たちの暮らしを支えています。

 

 

■算数&数学の本質は意味を理解すること

 

解法を暗記したり、“型”にあてはめる解き方をしたりしていると数学的(算数的)思考力が身につきません。数学的思考力とは、算数&数学的事象を一般化したり抽象化したりして、普遍的な原理原則を見つけ出す力です。平たく言えば、“なぜ”を追究しながら規則性を見つけ、そこにどんな意味が潜んでいるのかを探る力と言えます。数学的思考は、ブラックボックスの中身を解き明かす面白さにも通じています。

 

算数&数学に対して作業的な取り組み方をしている人は、計算や学校レベルの問題を解けても、本質的な意味を理解できていません。例えば、「5÷1/3は、割る数1/3を逆数にして乗じる。すなわち、5×3=15となる。」という解き方は誰もが知っています。ところが、「5÷1/3は、なぜ5×3になるのか?」という質問に答えられる人は少ないのではないでしょうか。解き方だけを知ることとその意味までを理解することとの間には大きな隔たりがあります。

 

算数&数学は、数的事象を数式を用いて表現する一種の言語です。言語は思考する際の道具ですから、算数&数学の意味を知ることは思考の引き出しを増やし、その幅を広げます。例を挙げると数学的思考力は、ビジネスにおいてマーケティングの分析や作業工程の立案など論理的思考の基礎となるでしょう。数学的思考力を育んだ人は相関関係と因果関係を見分け、根拠に基づいた判断と行動ができるようになります。

 

 

■算数&数学の学びは“なぜの精神”を大切にしよう

 

解き方をパターン化して暗記する勉強方法に注力してきた人は、これからは次のように姿勢を改めてください。

 

①問題文に込められているメッセージをよく読み取り、そこに潜んでいるポイントを見つけ出しましょう。

②知識の引き出しを総動員して、解答に辿り着くための作戦を練り上げましょう。

③あとは試行錯誤しながら検証するのみです。

 

算数&数学を学ぶ時にこだわる点は、解答の○×よりも解答を導くまでの考え方です。“こうすれば解ける”ではなく、“どうして解けるのか”という視点に立って問題に向き合うと数学的思考力と成績が向上します。同時に、算数&数学の本質的な面白さにも気づける特典もついてきます。

 

 

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