理科塾から望む教育コラム

教育、世相、人と街…、肌で感じた小さな発見と疑問について軽い頭を絞りながら綴ります。

学力を上げたい人が国語から学ぶ訳

教科としての”国語”との向き合い方

 

小学校で主要科目だった国語は中学以降、英語と数学の陰に隠れる科目となります。書店の参考書コーナーを見渡せば、国語関連のスペースが英語と数学の脇に追いやられている印象は否めません。学習塾でも授業コマは英語と数学を中心に構成されています。

生徒にとって国語は勉強の仕方が分からない科目の筆頭に挙げられるでしょう。また新米講師にとっても国語は教え方が分からない科目と捉えられているようです。

 

一方で、「国語はすべての教科の土台となるから大切だ」との声も聞かれます。そうは言っても、具体的に何をどのように学ぶのか、その命題に答えられる人は多くありません。

私たちは日本語を母語として使っているため、何か特別な勉強をせずとも国語力を身につけている気になりがちです。しかしそれは、日常会話において十分な意思疎通が図られるレベルにすぎません。

文章の行間を読み、客観的な事実や人の考えと心情に耳を傾け理解する。伝えるべき情報や考えを整理して言葉に置き換える。こうした知的作業を行える力が国語力と呼ばれる能力です。

 

したがって、国語力を磨き上げるには論理的な手法による学習と訓練が必要です。文の構造を知り、段落間の接続や文章構成を意識しながら読み解くことが国語力向上の一歩となります。

 

国語教育の現状に目を向けると、公立学校ではクラス全員での音読に始まり、板書の書き写しや漢字の書き取りに終わります。

最も国語力を身につけられる作文は、その学習機会がほとんどなく、あったとしても感想文を書かされるくらいです。文章の書き方やストーリーの構成法を教えないままに感想の内容に重きを置いた指導が一般的に行われています。

 

小中学生の書く感想文は、往々にして課題文の内容をなぞる、または時系列に出来事を並べて書く程度に終始します。感想や意見は似たり寄ったりの“正しいもの”になりがちであり、心から湧き出た気持ちや考え抜いた意見は見られません。

そもそも原稿用紙のマス目に文字を埋められず、1枚分(400字)すら書き上げられない子も多いでしょう。そのため、定型の書き出しや冗長な文末『今日は…、ぼくは…、と思います』を濫用し、深みのない内容を重複させてしまいます。

 

先程も述べたように国語力とは、客観的事実や相手の考えと心情を読み取り、情報や自分の考えを伝える能力です。すなわち、情報を処理したり、考えを巡らせたりする能力は国語力に左右されています。こうした国語力は、他教科の学習や受験にとどまらず、大人になってからも生活や仕事で欠かせません。

 

最近ではSNSやネットを通して情報を発信する機会が増えていますが、的外れなコメントや稚拙な文章が散見されます。こうしたコメントや文章は、意図しない解釈を相手に与えることで誤解や差別を生み出す恐れがあります。無数の情報が飛び交う社会に生きる私たちは、情報を精査して考える必要に迫られています。

 

 

国語力が英語力を引き上げる!?

 

言語には、文の成分(主語・述語・修飾語など)があり、その組み立て方にルールがあります。これを統辞法(シンタックス)といいます。日本語の統辞法は文末の述語を中心に他の成分(主語・修飾語など)が同列な関係に展開(係り受け)されます。

英語の統辞法は日本語のそれとは逆で、文頭の主語+述語を中心に他の成分(目的語・補語・修飾語など)が展開されます。

 

中学高校で学ぶ英語は、この統辞法を中心に学んでいるわけです。(S+V+C・S+V+O・S+V+O+Oなどの文型や関係代名詞・不定詞など)日本人が英語を苦手とする一因には日本語と英語との統辞法の違いがあげられます。

 

「英会話は楽しいけれど、学校英語は苦手だ」なんて人は、おそらく日本語においても統辞法の理解をしていないと思われます。会話をするときに「主語がこうで、述語がああで」なんて係り受けを意識する人はいません。ゆえに、論理的な統辞法は会話を成り立たせるための必要条件でも十分条件でもないのです。

 

しかし、読解作文や学校英語では統辞法は必要十分条件です。国語を論理的に学べば統辞法をはじめとする文法知識を身につけられます。統辞法の理解は、読書や小論文に役立つのはもちろん、学校英語においても成績向上の助けとなるはずです。

 

 

これからの受験で問われる力

 

近年の中学入試の世界では、詰め込み学習をしてきた受験生を苦しめる問題が出題される傾向にあります。

有名なところでは麻布中学で毎年出題される記述式問題があげられます。今年は社会科の試験において、「難民問題」に纏わる長文を読んで考えを書かせる設問が話題になりました。

 

塾のテキストにも掲載されていない未学習の話題を出題するには麻布中学側の意図があると思われます。

もっとも未学習の内容だから解けないわけではありません。長い問題文から情報をつかみ取り、持ち合わせている知識と日常で培った興味関心を総動員しながら考えられるように作られています。

 

推測するに麻布中学は、いわゆる勉強だけができる子ではなく、好奇心旺盛な子を欲しているのでしょう。目の前の情報と向き合い、思考を巡らせて、それを表現できる力が求められています。「難民問題」は社会科の問題として出題されましたが、求められている力は国語力そのものです。

 

これからの入試で問われる能力は、2年目を終えた大学入学共通テストでも議論されています。現状では記述式問題の導入などが見送られ、とりあえずセンター試験の路線を凡そ踏襲していますが、従来の知識を問う試験から思考力を問う試験へ変化していくと考えられます。

中学入試では適性検査型入試を筆頭に、将来の大学入試を見据えて思考力型の設問が先行導入されつつあります。

 

大学入試や中学入試のためだけではなく、技術革新やグローバル化による変化の著しい社会を生き抜くためにも好奇心と思考力を育まなけれなければなりません。思考は言葉で支えられている点から考えても、国語を脇役の教科と位置付けるわけにはいかないようです。

 

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